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エンジニア教育方針の失敗事例 – 1on1教育 –

エンジニア教育の失敗事例


今回の記事は、エンジニア教育制度をせっかく導入したものの、

「上手く参加者が集まらない」
「運用が失敗し、社員の不満が増えた」

など、課題を抱えている企業の方にぜひ改善の参考として頂きたい内容です。

先日、知り合いから、企業としてのエンジニア教育方針があまりにも不安だという話を相談いただきました。

要点は以下です。

  • 突然、経営者より全社に1on1での技術指導を開始する通達があった
  • 具体性がなく、動いている様子もない
  • 社員の反応も悪く、反感を買うだけではないかと心配している
  • この内容を聞いて「失敗する」と思いましたし、外部の私よりも、近しい位置にいるエンジニアが不安視している以上、成功の可能性が低いことは火を見るよりも明らかです。

    今日はこの行為の問題点と、エンジニアが望んでいる企業の教育方針とは何かまとめていきます。

    YouTubeでも詳細をお伝えしておりますので、文字が面倒という方は是非聞き流しで再生いただければと思います。

    打ち出しては見たものの、謎な教育方針

    今回相談者に伺った企業の教育方針は以下のような内容でした。

  • 社員が講師となって1on1教育をおこなう
  • 勉強会や教育の様子をWebや社内SNSで共有する
  • エンジニアとしての目指すべき方向を見失わないためである
  • この企業さんは、SES(System Engineering Service)という準委任契約での業務が主体です。200名程度のエンジニアを社員として抱えており、コロナ前までは売り上げは右肩上がりだったそうです。

    SESとは、エンジニアを顧客常駐でプロジェクトに参画させることで、マージンを利益として得るエンジニア人材派遣業の一種の形態で、日本では非常に多く見られます。

    この全体周知に対して、社員のリアクションは著しく少なく、「また社長がなんか言い始めたぞ・・・」的な空気感だそうです。

    確かに、具体性や計画性が全くなく、5W1Hが2つくらいしか埋まってないように聞こえます。

    まず、こう打ち出した背景を聞いてみると、以下のようなものでした。

  • 10期目を超えたので新しいことを打ち出したい
  • 企業としての魅力作りをしたい
  • IT未経験者が多いため、スキル向上につなげたい
  • この理由は上から順に比重が高く、「何か新しいことを打ち出したい」という気持ちの焦りが、この行動につながったのだと考えられます。

    他の理由からも課題が透けて見えます。
    SESという形態で事業をやっていると、エンジニアは常駐先の企業に帰属しているよう意識してしまうので、「SES企業」としては、魅力がなくなっていくものです。

    余程、エンジニア社員同士の技術情報の共有や、合同勉強会などが盛んで無い限り、エンジニアにとっては「ただ給与が支払われるだけの会社」以上のものではなくなってしまいます。

    そこで、教育をベースにした新しい魅力として、(最近巷で流行の・・・)1on1という言葉を使って、差別化したいという思いがあったのでは無いでしょうか。

    理由が先行してしまって、具体性を欠いてしまった、ということが最大の問題点と言えます。

    SES企業における1on1技術教育で想定しておくべきこと

    この取り組みを全社に通達する前にやった方が良かったことを整理してみましょう。

    大きくは3つあります。

  • 既存の取り組みとの違いを整理しておく
  • メンターを務める社員を合意決定しておく
  • 対象者を明確にしておく
  • どれも当たり前のようですが、決定的に今回この辺りに関する考慮がなかったようです。一つずつ見ていきましょう。

    既存の取り組みとの違いを整理しておく

    こちらの企業は、10期目を終えたところで数々の取り組みを行ってきたそうです。人材開発に取り組む専門部署に新入社員、中途採用社員を参加させることで、まずは社会人としての基礎研修を行っています。

    かつ、技術の基礎教育を行う専門施設を別拠点に置き、講師を配置しています。2ヶ月ほどその中で教育を施し、エンジニアとしての基礎を学ぶことができます。

    さらに、社内にはシステム開発部と、インフラ技術部という組織を作り、組織内でも教育や勉強会などを行うよう奨励しているそうです。

    これらの3つの取り組みと、今回の「1on1」は明確な違いがどこにあるのか、全社通達の内容からは判断できませんでした。また、相談者である方もその仕組みがどう言ったものか分からないとのことで、理解浸透させるまでの精度では無い状況での発表となったのだろうと思います。

    例えば・・・

    「所属部署とは別の部署のメンターをつけることができる」
    「基礎研修の内容を復習できる」

    など、メリットとなる設計があることを社員に示すべきだったと思います。

    全員が言葉だけでも説明で理解するとは限りません。SESがメインの業態では、社内のコミュニケーションも頻繁でない可能性があり、経営者の考えも理解されにくい環境です。

    最低限、現在の体制と教育制度を図示した上で、今回の新規制度がどう言った立ち位置で設計されているのかという図解による説明が必要だったのではないでしょうか。

    メンターを務める社員を合意決定しておく

    今回、この取り組みの進捗を聞きましたが、未だに講師を務める社員は決定していないそうです。

    ここが最も痛いポイントかなと思いました。この取り組みをやるぞと打ち出したところで、「誰がやるの?」という状態になってしまっています。

    実際に教鞭をとる社員に合意形成していない状態で打ち出しているため、「発表したあの件の講師をやってもらえないか?」という依頼をしていくことになります。社員への報酬などもあるのか無いのか不明であり、その詳細もままならぬ状態では、なかなか人は集まらないと予想できます。

    また、SES企業であるため、社員は全て現場に出ています。基本的には、帰宅後など残業時間に社内業務をこなすことになりますが、講師を務めるということはその準備や開催時間も残業して行うことになります。

    残業代という形でその報酬が支払われるとしても、それはかなりブラックな印象を与えることになると思います。「会社の取り組みなのだから、やってくれ、ただし残業で」というのは随分乱暴です。

    顧客調整の上、稼働日を減らすことで講師も受講者も日中帯の時間を調整しやすくするなど、現実的な案を盛り込む必要があったかと思います。

    対象者を明確にしておくべき

    また、今回相談いただいた取り組みは、一体誰が受講者なのか不明瞭でした。

  • 新卒なのか、中途採用社員でも良いのか。
  • 2年目以降の社員でも良いのか、
  • 中堅社員だが、新しい分野の技術を学びたい、という者でも良いのか。
  • など、誰をターゲットにしているのかを整理すべきだったのだろうと思います。

    この企業さんは、別途研修施設なども用意しており、人材開発部署や技術専門の部署もあるため、「研修期間中の社員は対象なのか」「所属に関わらず対象なのか」など、多々疑問が湧き、「その制度を使いたいです」と手を上げることもしにくい内容です。

    また、講師の対象もどの程度の人材がいるのか、受講希望者は分からないため、すぐに講師を割り当ててくれるのか、順番待ちになるのかなども不明です。「現在、この講座を受講したい社員を募集中」などの周知を複数まずは準備してから、発表するべきではなかったとも思います。

    課題としては、1つの講座に一人の受講希望者だけとも限らないため、同じ講座に五人など応募が会った時には、どういう選定がされるのか、希望に添えない場合もあるのか分からないままとなっています。もし希望がほとんど叶わないようならば、「そこまで頑張って希望を伝えることもないな・・・」というように、労力を惜しむあまり受講希望を出さないと考えられます。

    重要なのは、受講者側の目線になって制度を作る、ということです。
    今回の背景を伺う限り、経営者側の都合でしか制度が設定されていません。これらの3つのポイントを最低限、整理しておくことで、「受講者が手を挙げやすい制度」ぐらいにまで昇華しておくことはできたのではないでしょうか。

    私の1on1教育事例

    最後に、私が実際にエンジニアとして1on1教育に携わっていた中で、取り入れていた内容を紹介します。私は、週一でメンバーへ以下のように指導する機会を設けていました。

  • メンバーは技術に関するプレゼンテーションや質疑応答時間を自由に設定する
  • メンターとしてその内容に経験者としての知見で指摘・アドバイスをする
  • プレゼン資料には力を入れなくて構わない
  • 3つ目、プレゼン資料の作成には手を抜くように伝えていました。目的は技術力の向上であり、資料作成で苦痛になるような可能性を排除したかったためです。継続する上でも重みになってくるだろうとも予想していました。最悪、資料はなくてよく、どこかのブログの内容でも構わない、と伝えています。

    その上で、学んだことや学習中の内容を話してもらい、時には、「ここが分からない」と言った内容をぼんやりでも伝えてもらうのです。すると、私のエンジニアとしての経験からその文脈でつまづきそうなポイントがわかるため、適切なアドバイスをすることができます。

    メンバーは、その時間を使って自由に自己学習の内容を拡張することができます。メンターの経験値と頭脳を使って、別の切り口や言葉で説明を受けることで、一度自分で学んだ内容の理解を深めることができ、現場で経験を実際に積むよりも早く、経験者の思考法を手に入れることができます。

    本で学ぶよりも早く、体験として経験者の思考に触れることができるため、効率が良いと考えて実践していました。

    また、資料づくりを一回一回、確実にこなすのではなく、あえて手を抜き、失敗も成功も数多くこなすことで、資料作成に慣れていきます。一回の資料を全力で作っていくよりも、多様なテーマで数多く資料を作っていくことで、資料づくりのスピードも上がっていきます

    メンバーが次第に資料づくりが短時間でも上達していく様子を見て、私も嬉しくなりました。

    まとめ

    今回の、失敗事例と、私の1on1教育の事例はいかがでしたでしょうか。

    エンジニア教育に頭を抱えるSES企業は多く存在すると思います。せっかく導入したの運用に乗らない、上手く参加者が集まらない、などの際は参考としてみていただき、改善の参考としていただければ幸いです。

    ではまた。