書評

私の性格に影響を与えた伝奇シリーズ「創竜伝」 | 田中芳樹(著)

田中芳樹といえば、メディアミックスされている銀河英雄伝説やアルスラーン戦記が有名だが、私は小学生の頃に読み始めた「創竜伝」シリーズが最も思い出深い。

というのも初めて買って読んだ難しい小説が創竜伝の文庫版3巻だった。CLAMPのイラストに惹かれて購入したので、3巻をジャケ買いしたのだ。

創竜伝は先に新書版が出ているのだが、こちらはファイナルファンタジーなどのイラストで有名な天野喜孝さんがカバーイラストを担当されている。

当時スーパーファミコンでFF4やFF6をプレイしていた私は「売れっ子の人だなぁ」ぐらいに思っていたが、よくよく考えれば幼少期にハマった2作品がどちらも天野喜孝イラストがタイトルにあるというのはなかなかの縁だったと思う。

当時は、1990年代で携帯電話も普及する前だった。創竜伝の舞台は平成初期で政治体制なんかも当時に近い話として描かれている。小学生の私にはさっぱりわからなかったが、学びの多いシリーズだった。

主人公たち4兄弟は祖父の教えに厳しく従い、家訓を重んじる責任感のある長兄がリーダーシップをもって家族とその従兄弟を守る様子に、なんだか我が家のゆるーい感じとはちがうなぁと思いつつ、羨ましくおもいつつ読んでいた。

この私が買った思い出の文庫版3巻はいまだに小学校のタイムカプセルの中に終われている。福島の震災で掘り起こされることは(おそらく)もうないであろうと思っているが、もしかするとこっそりみんなで開けてくれたのかもしれない。

創竜伝は中国の伝説「四海竜王」になぞらえており、それぞれ4兄弟が竜の化身であるという設定だ。

「蚩尤」と呼ばれる牛の怪物一派が中国や米国政府に裏でつながっており、襲いかかってきては薙ぎ倒し、各巻のラストには4兄弟が巨大な竜に変身してその超常的な能力を用いて事態を収集するというのがオチだった。

遅筆で有名な田中芳樹さんはこの創竜伝シリーズを十数年完結させずに未完のまま置いていたのだが、同じく眠り姫状態だったアルスラーン戦記を足速に完結させると、創竜伝も14巻と15巻と連続リリースし、足速に完結に導いた。

結末に関しては展開にどうというよりも、小学校から続いたこのシリーズが完結したことがまず「よかった、ほっとした」という感慨深い気持ちになった。これが年1冊ペースで刊行されていた当時のスピード感で終局していれば、色々とああだこうだという感想が出てきたのだろうが、終盤には設定の時代背景もスマートフォンが出てきたりとよくわからないことになり、まともな感想で述べることはできなくなってしまったのが残念だ。

とは言え、楽しく読める伝奇小説で主人公たちのキャラクターもいまだに愛着がある。彼らの性格は幼少期の自分の中に少なからずインストールされており、少し(?)偏屈なところや大胆なところも竜堂4兄弟譲りなところが少なからずあると思っている。