『爆弾』| 呉 勝浩(著)
『このミステリーがすごい! 2023年版』、『ミステリが読みたい! 2023年版』国内篇の受賞作です。
本屋大賞2023にもノミネートされています。
あらすじ
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
レビュー
2023年度の本屋大賞ノミネート作として5冊目に手にとりました。
今回のノミネート作はミステリが多いですが、中でもサスペンス度の高い作品です。
東京全土を巻き込み「爆弾」が牙を剥く物語。東京の土地勘があると更に面白く感じるかと思います。
事件の凄惨さや警察内部の人間関係等よりも、登場人物の犯罪心理がテーマに描かれています。誰もが一度は思うような思考が丁寧に表現されて、感情移入できるキャラクターが多く、自分と似た思考を発見できるのではないかと思います。
社会に浴びせられた理不尽や、倫理的に噛み殺している悪の感情、自身の深層にあるどこか狂った部分、憎悪と劣等感にまみれて汚れてしまった精神など、それらが「爆弾」となり、世界を壊してしまえばいいのに、というテロリズムの産声を現実感のある舞台で味わう物語になっています。
厳しいシーンもありますが、映像化されたら観てみたいとも思いながら読み進めました。特に、冒頭から登場し、捜査の重要な手掛かりとなるクイズを出題する「スズキタゴサク」は、演じ甲斐のある強いキャラクター性を持っています。多分しばらくは私も忘れられないと思います。
犯罪心理に興味のある方や刺激的な物語を求めている方にはおすすめの一冊です。