書評

正欲 | 朝井リョウ(著)

2021年に新潮社より出版され、朝井リョウのデビュー10周年記念作品として書き下ろされた長編小説です。2022年本屋大賞にノミネートされました。本作を原作とした映画が2023年に公開されて話題となりました。

あらすじ

現代日本の社会問題や個人の悩みをテーマに取り上げています。異なる背景を持つ数人の登場人物が、それぞれの人生の中で直面する困難や葛藤を描いています。主要な登場人物たちは、自己の「生きる意味」や「欲望」と向き合いながら、社会の中で自分の居場所を見つけようと奮闘する話です。

レビュー

「読む前の自分には戻れない」

この帯の一文に衝撃を受け思わず購入しました。正直に言うと、小説一冊で自分の価値観が変わるとは思っていませんでした。しかし、その一文に強く惹かれ、気になる気持ちが抑えられず購入しました。

読み始めは、価値観が変わるなんてと半信半疑でしたが、次第に物語に引き込まれていきました。

この小説は、あらすじにも記載がありますが数人の登場人物の視点で描かれており、それぞれが異なる考えや価値観を持ちながら問題に直面します。ある人物には共感し自分と重ね合わせたり、逆に全く理解できない思考を持つ人物もいて、自分ならどう行動するだろうかとさまざまな視点で考えさせられました。

物語が進むにつれて、別々だった登場人物たちがある一つの事件に辿り着き、やがて繋がっていきます。衝撃の展開が続き、そのたびに鳥肌が立ちました。ハラハラする展開でありながら、考えさせられる要素も多く、小説として非常に面白い作品でした。

そして読了後、自分の価値観が変わったと感じました。特に日常生活で大きく変わったと感じるのは、街中で怒鳴っている人を見かけた時や、SNSでアンチコメントを残す人、ニュースで報道される罪を犯した人たちに対する見方です。以前は一概に「悪」と捉えていましたが、今では違った視点で見るようになりました。

もちろん、罪を犯した人は「悪」であることに変わりはありません。これは法で定義されたものであり、覆ることはないと思います。ですが、この小説を通じて自分が考えうる範疇を遥かに超える価値観や生き方が存在することを知り、昨今耳にする「多様性」という言葉はもっと慎重に使うべきだと感じました。

誰かにとっての悪が、別の誰かにとっての正義になることもありますし、自分が正しいと思って行動したことが他の人から見ると悪になることもあります。これからは、何事も普遍的に考えず、柔軟な視点で生きていきたいと思いました。

この小説は、考えさせられるだけでなく、物語としても非常に楽しめる作品です。読んで損はないので、ぜひ皆さんも手に取って、価値観を広げてみてください!