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なぜタスクは完了しないのか – 90%完了症候群の罠

90%完了症候群」という言葉をご存じでしょうか。

IT界隈では、PGなどの担当者や、プロマネら管理者の間で囁かれている、この言葉。

プロジェクトマネジメント用語としては「車輪の再発明」の次に肝に銘じたい、重要な用語です。

90%完了症候群とは

 「90%完了症候群」とは、作業の進捗率を「90%程度終わっている」と、甘く見積もってしまうことを指します。

 事例としてはこのようの会話です。

どれくらい終わった?
ほぼほぼ、9割がた終わってます

 そして、ふたを開けてみると6~7割の完成度だった、というようなことがよくあります。

 皆さんもありませんか?
 進捗率90%から微動だにしないタスクとか。

 「このタスク、1か月間90%のままなんだけど・・・

 「この10%どんだけ重いの!?

 このようなタスクは、果たして正しい進捗管理が行われていると言えるのか疑問なことがあります。

なぜ発生するのか

 なぜこのように甘く進捗を見積もってしまうのでしょうか。

 主な原因は3つと考えられます。

1.早く終わらせたいという心理

 1つ目の原因は、担当者や管理者の「早くそのタスクを完了させたい」という心理が強く働いているためです。

 プロジェクトは多くのタスクが山積みで、一人当たり複数のタスクを持つことが当たり前です。そのため、早く次のタスクに手を付けたいと考えたくなるものです。忙しければ忙しいほどにその傾向は強まります。

 結果、タスクの進捗率を「90%」と置き、自身を安心させて、次のタスクへ着手したいと考えてこのような甘い見積もりをしてしまうそうです。

 もはや錯覚と言っていい話です。恐ろしいです。

2.タスクの細分化が甘い

 2つ目の原因は、タスクの細分化が甘く、進捗度合いを測りにくい管理方法となっているためです。

 よくあるのは「設計書のレビュー」です。

 設計書を作ってレビューに出すまでは良いのですが、そこからが長かったりします。レビュー記録の作成や修正のタスクは、指摘事項の数によって作業時間が変動します。

 場合によっては、他チームと協議の上、仕様変更を行う検討に入らざるを得ないような指摘事項も発生するものです。
 すると、その設計書の「指摘事項修正・取り込み」のタスクが、永遠に進捗率90%のままになります。

 これは、タスクの細分化によって防ぐことが出来ます。
 この例の場合、進捗率を90%で停滞させかねないその指摘事項自体を、一旦は新規に発生した課題として別タスクとして扱います

 プロジェクトマネジメントでは「課題管理」などという言い方で、日々発生した課題を扱う営みがあるのでそれを利用するわけです。

 その指摘事項に対する修正は、「課題完了後に設計書に取り込む」といった管理方法として切り出すことで、設計書自体の修正を完了として扱います。※勿論、その他の修正と確認が終わっていれば。

 これは一例ですが、そもそもの細分化がもっと甘い場合もあります。せめて内部管理として、どこまで終わったかを判別可能なタスクレベルに細分化する工夫が重要です。

3.進捗率自体の曖昧な定義によるもの

 3つ目の原因として、「進捗率」そのものの定義が明確でないことが挙げられます。

 例えば、単体テスト項目が、大項目レベルで4つあったとします。
 3つ終わったら75%完了ですね。

 大項目ごとのテスト件数に下記のようなばらつきがあったとしたらどうでしょう。
 果たして、75%完了と報告してよいものでしょうか?

テスト項目数全体:100件
内訳
大項目1 10件
大項目2 10件
大項目3 10件
大項目4 70件

 テストを順序良く行ったとして、大項目1~3まで終わった段階で75%終了とは言えません。1件当たりの消化に必要な時間が同程度であるならば、大項目4はそれまでの倍以上の時間がかかることになります。

 この場合、「テスト項目全量に対して、30%の進捗率」と判断する必要がありますから、全体件数を基準に進捗率を報告すると良さそうです。

 このように、進捗率は、何を物差しで測るかを明確にする必要があります。この例では大項目ではなくテストの件数でした。

 管理者は数値を使って客観的に把握しますので、「実は大項目4はめっちゃ数が多い」といったような罠には気づくことが出来ず、プロジェクト全体に遅れが出てしまうこともあり得ます。

 1つ目の原因で挙げたように、人は報告内容に安心を求める傾向にありますので、「終わった」という報告に対して疑問を抱きにくいバイアスがかかるということも注意しましょう。

固定観念と未来予測

 プロジェクト計画やスケジュールに従って、我々エンジニアは働くわけですが、その計画やスケジュールは、常に変わる可能性を秘めているということを意識しておくといいのかもしれません。

 そもそも、絶対的な未来予知をすることは出来ません。
 どんな行いも、予想外の出来事が発生し得るものであり、その度にもともとの計画のずれを修正していく必要があります。その修正の大きさや頻度を減少させ、限りなく未来を確定に近づけていくことが、プロジェクトや作業計画のマネジメントだと、私は理解しています。

 まずは、この「90%完了症候群」を理解し、「ほぼ終わっているに違いない」と思いがちな幻想を、一種の認知バイアスを取り払うことが重要ではないでしょうか。
 
 私自身、正確に作業ボリュームを図ること、進捗を錯覚せず冷静に捉えることを、肝に銘じるためにもここに投稿しておきます。

 ありがとうございました。